中村晋也

自然なカタチ
“駄菓子屋”ヤギサワベースのデザイナー

東京都西東京市の西武柳沢駅近くに「ヤギサワベース」という駄菓子屋がある。

夕方になると学校帰りの子供たち、休日は親子連れが満面の笑みで時間を過ごしている空間だ。そして、れっきとしたデザイン事務所でもある。そこの主が、中村晋也さんである。彼は、東京都杉並区荻窪に生まれ、美大を卒業後は大手デザイン事務所に勤務していた。

東日本大震災をきっかけに、住居のあった西東京市に仕事場を移した彼は、デザイナーという職を全うしつつ地域密着型の駄菓子屋を営み始めたのである。そんな駄菓子屋「ヤギサワベース」は、多くのメディアでも取り上げられ、今では全国的に知られる駄菓子屋となった。

ちょうど子育ての時期ということもあり、子供の保育所やPTAのつながりなどで、徐々に地域との交流が広がっていったという。

とはいえ、彼の中では、それはごく自然なことだった。地域のつながりの中で生きている。だから地域の中で人と人とのつながりができる駄菓子屋を開いた。世の中では、面白い存在として取り上げられるが、彼としては自然な流れなのだ。

また、デザイナーとしての彼はこう言った。

「デザインの仕事とは、ヒアリングの仕事だと思います」

以前は、仕事のスタンスが受け身だったというが、地域のつながりの中で仕事をするようになった彼は、積極的に話を聞き、引き出し、デザインに「自分」というものを表現するようになった。

彼を語るうえで真っ先に頭に浮かぶのが、東日本大震災原発被災地のまちづくりである。前職で担当したこの仕事で、タッグを組んだ。被災により避難を余儀なくされた方々の帰還を促し、地域のコミュニティをもう一度よみがえらせるには、私の固くなった頭では限界があり、彼にサポートを請うた。

将来を担う子供たち、子供と親、親同士のコミュニティを自然なスタンスでつくりあげる彼の手腕が必要だと直感したからだ。

その活動の一端は、下記の動画でご覧いただきたい。

イベント後、意外にも彼はこんなことを私に告げた。

「ヤギサワベースでは、地域の人として自然体でいられ、子供たちも地域の人として接してくれます。でも、現地(被災地)にいると、外の人なんですよね」

「地域で地道な活動をしている方々と出会い、つながっていくというタガヤスの理念にとても共感しています。やはり、地域のことは地域の手でできるようにならないと」

彼には、被災地の活動を東京から来た自分たちが担っていることに違和感があった。

「(どのような仕事にも)あまり思想を持ち込まないようにしています。自然なカタチで人と人とがつながっていけるのが一番です」

彼はいつも自然体なのだ。

だからこそ、地域から愛され、子供たちから愛される。

タガヤスの理念を自然体で実現してくれる、そんな仲間である。