空き家の問題は“人”の問題
─── タガヤス 理事 谷 弘一(一般社団法人 すまいの未来研究機構 空き家まちづくりディレクター)
「僕たちは仕組みをつくろうとしているわけではないのです」
この言葉が、谷弘一さん、そして「一般社団法人すまいの未来研究機構」(以下、すまい研)の活動を物語っている。
彼は、兵庫県明石市にある由緒ある地場の大手建設会社の三男として生まれた。大学時代にイギリスに留学したが、その時に日本との住まいに対する根本的な考え方や文化の違いを目の当たりにすることとなる。
大学を卒業して、商社マンとして様々な経験を積んだ後、自己の住まいに対する思いの実現に向けて走り始めた。
当時、国ではストック重視の住宅政策が展開されており、既存住宅流通市場の活性化が大きな政策課題であった。国と民間が連携して新しい様々な取り組みが始められ、私はその事務局を担っていた。彼とはそこで出会っている。
彼は、建築家の才本謙二さんらとともに、すまい研を設立していた。阪神淡路大震災を経験した彼は、日本の住宅の耐震性を診断し、安心できる住まいとして、既存住宅の流通を活性化させようとする取り組みを開始した。そこで開発されたのが、すまい研のすまいの検査「フェニーチェパック」だ。
まだ、住宅検査というものが、不動産業界でも十分に認知されておらず、検査を実施できる人材も不足していたため、様々な関係者との調整や仲間集めに奮闘したのである。フェニーチェパックは、現在もサービスを展開している。
彼、そしてすまい研の活動は、徐々に進化し続けている。たとえば、「こうべリノベーション不動産」を立ち上げ、すまい研とともに空き家再生によるまちづくりを展開した。すまい研の活動では、単に空き家を再生するだけでなく、そこから生まれる地域の人と人とのつながりを大切に考えていた。
彼らは何らかの仕組みをつくろうとしているのではなく、空き家再生によるまちづくりを通して人を結びつける、ビジネスを支援するという「中間支援」の立ち位置を大切にしているのだ。今では、地域の芸術大学の学生たちが彼らの活動に参加し、その輪が広がっている。
この輪をより広げていくこと、それがすまい研の活動である。
「空き家の問題は人の問題」、彼は今も人と人とをつなげて、地域のまちづくりの土壌をタガヤスのである。